会社を始めるために必要だったのは、複合機だけではなかった。
ビジネスフォン。
パソコン。
これもまた、私を悩ませた。
私はExcelを使うのは得意だった。
でも、
スペック。
メモリ。
CPU。
そういう話になると、まったく分からない。
仕事で使うパソコンなら、どのくらいの性能が必要なのか。
安いものでも大丈夫なのか。
調べれば調べるほど、分からなくなった。
だから、リース会社の人に相談した。
「このくらいあれば大丈夫ですよ」
「このスペックが安心ですね」
ひとつずつ説明してもらった。
もちろん、言われるがままに決めたわけではない。
ビジネスフォンや複合機も何種類もあり、
分からないなりに質問して、
調べて、
比較して、
自分なりに納得して決めたつもりだった。
金額は、それなりにした。
それでも、
「仕事で毎日使うものなんだから」
と思った。
リース会社とは何度もやり取りをした。
機種を決めて、
見積もりをもらって、
内容を確認して。
ようやく話がまとまりかけた。
「あとは審査ですね」
そう言われたとき、
やっとひとつ片づいた。
そんな気がした。
ところが、そのタイミングで社長が言った。
「別のところにも聞いてみるか」
「……え?」
別のリース会社だった。
「こっちの方が条件いいかもしれないし」
正直に言えば、
また最初からやるの?
と思った。
機種を調べて、
説明を聞いて、
見積もりを比べて、
やっとここまで来たのに。
また同じ説明をして、
また見積もりを取って、
また比べる。
「あぁ…なんて面倒臭いのだろう…」
でも、
思いっきり空気を吸って「変わりたい自分」を思い出す。
「会社って、そういうものなのかな」
とも思った。
少しでも条件がいいところを探す。
それも仕事なのかもしれない。
だから、もう一度やった。
会社のことを説明して、
必要なものを伝えて、
見積もりを出してもらった。
やっと形になりかけたものを一度崩して、
また最初から積み直しているような感覚だった。
この頃には、私は少し疲れていた。
そして――
2社とも、審査に出した。
今度こそ。
どちらかは通るだろう。
そう思っていた。
結果は、すぐに出た。
「今回は難しいですね」
まず、一社。
そして、
「こちらも厳しいです」
もう一社。
2社とも、ダメだった。
しばらく言葉が出なかった。
あれだけ時間をかけた。
分からないことを調べて、
悩んで、
ようやく決めて。
もう一度やり直して、
また考えて。
それなのに、
全部、通らなかった。
公庫の融資に落ちた。
そして今度は、リースの審査にも落ちた。
また、
「審査」
だった。
「まあ、仕方ないな」
社長は、あっさりしていた。
私は、
そんな簡単には切り替えられなかった。
何がダメだったのか。
会社ができたばかりだから?
実績がないから?
金額が高かったから?
理由もはっきり分からない。
ただ、
「通らなかった」
という結果だけが残った。
そして私は、また考えてしまった。
パソコンの選び方が悪かった?
金額をかけすぎた?
別のものを選べばよかった?
私の判断が間違っていた?
でも、
何が正解だったのかも分からない。
分からないから調べた。
分からないから人に聞いた。
それでも、ダメだった。
その日は、
なんだか一気に疲れてしまった。
帰り際、
社長がいつもの調子で言った。
「軽く一杯いくか」
普段なら、
「行きましょう」
と言っていたかもしれない。
でも、その日は違った。
少しだけ間を置いて、
社長の顔も見ずに言った。
「……気分じゃないです」
お酒を飲む気にもなれなかった。
怒っているわけでもない。
ただ、
もう何も考えたくなかった。
一方の社長は、
やっぱり動じない。
42歳。
ひとつひとつ考えて、心配して、落ち込む私。
62歳。
ダメなら次、と前を向く社長。
→次回 第7話 「42歳独りよがり」


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