第6話 42歳と62歳、続々:審査の壁~設備準備への不安~

60代 起業体験談

会社を始めるために必要だったのは、複合機だけではなかった。

ビジネスフォン。

パソコン。

これもまた、私を悩ませた。

私はExcelを使うのは得意だった。

でも、

スペック。
メモリ。
CPU。

そういう話になると、まったく分からない。

仕事で使うパソコンなら、どのくらいの性能が必要なのか。

安いものでも大丈夫なのか。

調べれば調べるほど、分からなくなった。

だから、リース会社の人に相談した。

「このくらいあれば大丈夫ですよ」

「このスペックが安心ですね」

ひとつずつ説明してもらった。

もちろん、言われるがままに決めたわけではない。

ビジネスフォンや複合機も何種類もあり、

分からないなりに質問して、
調べて、
比較して、

自分なりに納得して決めたつもりだった。

金額は、それなりにした。

それでも、

「仕事で毎日使うものなんだから」

と思った。

リース会社とは何度もやり取りをした。

機種を決めて、
見積もりをもらって、
内容を確認して。

ようやく話がまとまりかけた。

「あとは審査ですね」

そう言われたとき、

やっとひとつ片づいた。

そんな気がした。

ところが、そのタイミングで社長が言った。

「別のところにも聞いてみるか」

「……え?」

別のリース会社だった。

「こっちの方が条件いいかもしれないし」

正直に言えば、

また最初からやるの?

と思った。

機種を調べて、
説明を聞いて、
見積もりを比べて、

やっとここまで来たのに。

また同じ説明をして、
また見積もりを取って、
また比べる。

「あぁ…なんて面倒臭いのだろう…」

でも、

思いっきり空気を吸って「変わりたい自分」を思い出す。

「会社って、そういうものなのかな」

とも思った。

少しでも条件がいいところを探す。

それも仕事なのかもしれない。

だから、もう一度やった。

会社のことを説明して、
必要なものを伝えて、
見積もりを出してもらった。

やっと形になりかけたものを一度崩して、

また最初から積み直しているような感覚だった。

この頃には、私は少し疲れていた。

そして――

2社とも、審査に出した。

今度こそ。

どちらかは通るだろう。

そう思っていた。

結果は、すぐに出た。

「今回は難しいですね」

まず、一社。

そして、

「こちらも厳しいです」

もう一社。

2社とも、ダメだった。

しばらく言葉が出なかった。

あれだけ時間をかけた。

分からないことを調べて、

悩んで、

ようやく決めて。

もう一度やり直して、

また考えて。

それなのに、

全部、通らなかった。

公庫の融資に落ちた。

そして今度は、リースの審査にも落ちた。

また、

「審査」

だった。

「まあ、仕方ないな」

社長は、あっさりしていた。

私は、

そんな簡単には切り替えられなかった。

何がダメだったのか。

会社ができたばかりだから?

実績がないから?

金額が高かったから?

理由もはっきり分からない。

ただ、

「通らなかった」

という結果だけが残った。

そして私は、また考えてしまった。

パソコンの選び方が悪かった?

金額をかけすぎた?

別のものを選べばよかった?

私の判断が間違っていた?

でも、

何が正解だったのかも分からない。

分からないから調べた。

分からないから人に聞いた。

それでも、ダメだった。

その日は、

なんだか一気に疲れてしまった。

帰り際、

社長がいつもの調子で言った。

「軽く一杯いくか」

普段なら、

「行きましょう」

と言っていたかもしれない。

でも、その日は違った。

少しだけ間を置いて、

社長の顔も見ずに言った。

「……気分じゃないです」

お酒を飲む気にもなれなかった。

怒っているわけでもない。

ただ、

もう何も考えたくなかった。

一方の社長は、

やっぱり動じない。

42歳。

ひとつひとつ考えて、心配して、落ち込む私。

62歳。

ダメなら次、と前を向く社長。

→次回 第7話 「42歳独りよがり」

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