第7話 42歳、独りよがり~余裕がなくなると嫌な私が出てくる~

60代 起業体験談

前の日。

帰り際、社長が言った。

「軽く一杯いくか」の言葉に

私は社長の顔も見ずに、

「……気分じゃないです」

と答えた。

家に帰ってから、後悔した。

社長は何も悪くない。

リースの審査に落ちたのは、
社長のせいじゃない。

私を責めたわけでもない。

むしろ、

「しょうがないよ」

と言ってくれていた。

それなのに私は、
その一言にすらイライラしていた。

しょうがないって、何?

私はこんなに時間をかけたのに。

社長が何か言うたびに、
私は心の中で言い返していた。

「大丈夫、大丈夫」

と言われれば、

何が大丈夫なの?

と思う。

「ダメなら次にいけばいい」

と言われれば、

そんな簡単に言わないでよ。

と思う。

でも、それを口に出す直前に、

一瞬だけ、ためらう自分もいた。

これ、言ったら感じ悪いよね。

社長は悪くないよね。

今の言い方、きっと嫌だよね。

ちゃんと分かっていた。

分かっているのに、

口から出そうになる言葉を止められない。

むしろ、

少しくらい嫌な言い方をして、
私がどれだけしんどいのか気づいてほしい。

そんな気持ちさえあった。

だから、

「……気分じゃないです」

と顔も見ずに答えたときも、

言った瞬間にはもう、

あ、感じ悪かったな。

と分かっていた。

だったら、

「ごめんなさい。今日はちょっと疲れちゃって」

と言い直せばよかった。

たったそれだけなのに。

でも、その一言が出てこない。

素直になればいいのに、

素直になれない。

自分でも、

こういうところ、嫌だな。

と思う。

なのに、

一度不機嫌になった私は、

なかなかそこから戻れなかった。

「悪かったな」と思いながら、

そのまま黙ってしまう。

謝ればいいのに、謝れない。

普通に話せばいいのに、話したくない。

そんな自分を、

自分でも面倒くさいと思っていた。

それでも、

止められなかった。

→第8話「62歳、『大丈夫』の裏側。」

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